新卒でメガバンクや地方銀行への入社を考えている方や、銀行への転職を考えている方も多くいると思いますが、銀行の業務は幅広いこともあり、なかなかイメージがつかないのではないでしょうか。
今回は、新卒で銀行に入社した場合ほとんどの方が経験する、中小企業向けの法人営業についてご紹介させていただきます。
中小企業向け法人営業はやりがいを感じる機会が多く、数ある銀行業務の中でも銀行員の醍醐味を感じられる業務ではないかと思います。
やりがいの他、仕事内容や身につくスキルについてもご紹介させていただきます。
1. 中小企業向け法人営業の仕事内容
(1) 各担当企業の窓口
銀行によっては中小企業RM(Relationship Management)とも呼ばれる中小企業向け法人営業ですが、各担当企業の窓口として取引先のニーズに応えていくことが主要な業務となります。
各担当者は、それぞれ数十社の取引先を担当することになり、基本的に担当先からの全てのご依頼、ご相談に対応することとなります。
銀行側からするとお金を預けてもらう預金、必要な資金を貸す融資、海外との取り引きに不可欠な外国為替取引、各企業の社員の方の住宅ローン等、対応する内容は多岐にわたります。
また、以前はなるべく多く預金を集め、なるべく多く融資をすることで、利益を上げることができていましたが、近年は低金利の環境もあり、預金と融資のみでは銀行として収益を上げることが難しくなってきています。
そのような状況下、お客様からのご依頼だけではなく、想定されるニーズを考え提案していくことが重要となってきています。
コンサルティング営業を謳うメガバンク、地銀も増えてきていますが、預金・融資で収益を上げることが難しくなってきている中、お客様の潜在的なニーズを解決することで、手数料を獲得する収益モデルを拡大しようとしています。
(2) 適任者を繋ぐ調整役
中小企業RMは、全てのご依頼、ご相談を受ける担当窓口ではありますが、全てを自分で解決するわけではありません。
調整役として、適任の部署や相応しいレベルの人(役員や支店長等)をお客様のところへ連れて行くことで、依頼事項や相談事項に対応していきます。
自身がカードゲームのプレイヤーというイメージで、手持ちのカードに、「課長」、「支店長」等を持っていると想像してみてください。企業に最適な金融商品やサービスを提供するため、最適なカードを選び出していくイメージです。
また、経験を積んでいくことで「専門部署」カードも使えるようになり、お客様の要望や課題に対して、使えるカードが増えていき、より状況に合った適切なカードを切れるようになっていきます。
お客様に商品(預金や融資、外為取引等)を買ってもらうための切り札が、「支店長の一言」なのか「専門部署の商品知識」なのかを判断して調整するのが役目であり、大変面白みのある仕事です。
2. 業務のやりがいとつらいこと
(1) やりがい
① 企業オーナーと直接やりとりができる
中小企業営業の経験者が第一に挙げるやりがいとして、企業オーナーと直接やりとりができるということがあります。担当先が大企業となると、企業側もサラリーマンの世界となり、企業側の財務や経理といった担当部署が取引相手となりますが、中小企業の場合、直接企業オーナーである社長とやりとりをすることができます。
新卒入社の場合、早ければ入社半年~1年で、担当するお客様を持つことがありますが、新人の社会人が企業オーナーと対等に会話ができる機会は、他の業界ではあまりないのではないかと思います。
会社を築き上げてきた企業オーナーの方のお話や考えを直接聞けることは貴重な機会であり、勉強になることばかりです。
② 裁量が大きい
中小企業RMは、自分でコントロールできる業務範囲が比較的広いのが特徴です。上記でカードゲームのようなイメージと説明しましたが、状況に合わせてどのカードを切るかは、まさに担当者の判断となり、知識を付け、経験を積むことで、切れるカードすなわち提案の幅が広がっていきます。
業務がわかるほど、自分自身で状況に合わせた最適な選択をできるようになり、提案が契約に繋がると更に仕事が面白くなり、やりがいにも繋がります。
③ 担当企業の決定権がある
各企業の担当者は、銀行内において、その企業の全ての条件に対する決定権があります。例えば、担当先の企業が海外(仮にタイとします。)に子会社を有している場合、そのタイの子会社には、銀行のバンコク支店の駐在員が担当者となります。タイの子会社と取引をする場合、預金金利や貸出金利の条件は、バンコク支店では決定できず、親会社の日本本社の担当者が決定することになります。
海外子会社も含め、銀行内における全取引の決定権があることは、やりがいがあります。
(2) つらいこと
① 覚える業務、手続きが多い
法人営業は、お客様となる各企業の最初の窓口になると同時に、銀行内における調整役であることから、覚える業務知識、手続きは多岐にわたります。また、基本はいかに手続きに沿って業務を行なっていくかが重要となることも、慣れるまではつらい業務環境と言えるかもしれません。
全ての専門知識が必要なわけではありませんが、依頼事項・相談事項に対して適任の部署を調整できるだけの知識が必要になり、要所を掴むまでは苦労します。要点が掴めてくると、自分自身が案件の中心者となり遂行していけるので、やりがいが生まれてくるでしょう。
② ノルマがある
近年は変わりつつありますが、担当者には目標となるノルマが設定されます。これは、預金残高や貸出残高、収益額、住宅ローン金額等、多岐にわたるのが特徴です。
企業として、収益を挙げることを目標とするのは当然であり、担当者ごとの目標の割り振りは必要ではなりますが、中にはお客様のためにはならないながらもお願いをしなければならない場面もあり、つらいと感じることもしばしばあります。
3. 身につくスキル
(1) 書く、読む、聞く、話すの基礎能力
銀行の営業を担うと、書く、読む、聞く、話すの基礎能力をバランス良く、向上させることができます。これらの能力はどこで働くにしても必要となるポータブルスキルとして、普遍的な能力になります。
具体的には、下記のような場面で能力の向上が見込まれます。
- 書く:お客様との面談の内容や社内での報告を、報告書として簡潔に紙にまとめる必要がある
- 読む:銀行内の業務手順やルールを理解するために、手続きを読む必要がある
- 聞く:お客様との面談において、要望やニーズを聞き取る必要がある
- 話す:お客様との面談において、簡潔に説明する必要がある。銀行内においても、お客様のニーズを関係部署に伝えたり、面談の結果を上司に報告する必要がある
(2) 営業スキル
銀行の営業は、基本的にはお金を預けてもらったり(預金)、借りてもらったり(融資)と、物を作っているメーカーのように商品により他社との違いはほとんどありません。
※大企業向けの融資等、提案内容が複雑になると、商品で差別化するということもあります。
他行との差別化の要因は、担当者の人間力であり、いかにお客様と良好な関係を築くかが鍵となります。
商品に依拠しない営業であるため、提案のスピードやお客様の潜在ニーズに気がつく力等、どこにいっても基礎となる汎用的な営業スキルを身につけることができます。
(3) 銀行業務の基礎知識
中小企業RMは、個別の商品に対する専門知識を身につけることは難しいですが、幅広く業務に携わる必要があるため、銀行業務の基礎知識が身につきます。
銀行業務の基礎知識は、その後、銀行でキャリアを築いていく上では欠かせない知識であり、中小企業RMとして実務を通じて習得していくことは大変意義があります。
まとめ
銀行員の多くの方が一度は経験する中小企業向け法人営業について、やりがい、仕事内容、身につくスキルについて解説させていただきました。
銀行員の基礎を作ることができる業務であり、大変やりがいもあることから、中小企業RMが一番楽しかったと数年してから気付く銀行員も多くいます。
個人的にも、入社して最初に配属された支店で経験した中小企業RMが、他の経験した海外業務や営業支援業務と比べても楽しかったと感じています。
これから新卒で銀行への就職を考えている方、転職を考えている方のご参考になれば幸いです。