銀行の人事異動は、ほぼ毎月行われ、メガバンクでは多い時には一度に数百人の社員が異動となります。この頻度と規模は銀行特有のものであると思います。
全体でみれば、大変システマチックな異動制度となっていますが、個人個人でみると実は“運”に左右される部分が大変多く、人事異動の9割は運と言っても過言ではありません。
今回は、銀行の人事異動について、その仕組みと異動を決定する要素について解説していきます。
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1. 人事異動の仕組み
(1) 銀行人事の全体感
銀行にいないと銀行の人事制度は想像しにくいかもしれませんので、基本的なことからご説明させていただきます。
まず銀行では、ほぼ毎月、異動日という人事発令が発表される日が設定されており、その異動日に一斉に異動することになります。異動日の中でも、4月、7月、10月、1月の異動日は大きく(銀行では異動日に対して“大きい”と言います。)、メガバンクであれば数百人規模の異動となります。
誰がどこに異動するかを考えるのは人事部の仕事ですが、その異動を引き受けるかどうかは、支店や部署の拠点長である支店長や部長が決定します。拠点長が首を縦に振らない限り、人事部でも社員を異動させることはできません。
人事部から拠点長への打診は、早くて異動日の2週間前くらいにあります。そこから徐々に候補者が絞られていき、異動日の2日前くらいに全ての人事異動が確定となります。
異動する社員は、発令がでた異動を断ることはできませんし、異動日当日まで行き先はおろか異動することすら知らないこともあります。これは拠点長のスタイルにもよりますが、異動日の前日に異動があることを内密に知らせてくれる拠点長もいます。
(2) ツリー状になる人事の糸
銀行の人事異動では、基本的に前任者と後任者がいます。つまり1人が異動すると、その後任者となる人がどこかから異動してきて、前任者となる人はどこかへ異動していきます。
1人を見れば前任者と後任者のみですが、全体をみると一本の糸で繋がったツリーのように社員が異動することになります。
出発点は、役職が高いポジションであったり、退職者であったり、人員の増員であったりしますが、その出発点を起点に、異動したポジションに次の人が異動、またそのポジションに他の次の人が異動と続いていくのです。
異動日の2日前くらいに異動が決まると記載しましたが、実際にはその確定後に、「やっぱ異動させられない」というケースがあります。この場合、ツリーのどこにいるかにもよりますが、ツリー全体もしくはツリーの下の異動がなくなることもあります。
もしくは、急遽立ち消えになった糸を繋ぐために、全く打診がなかった人に、当日異動の打診が来るというケースもあります。
(3) システマチックにみえても実は属人的な部分も多い
社員数も多く、異動の人数も多いため、機械的に決まっていると思われる銀行の人事異動ですが、実は属人的な要素で決まる部分もかなりあります。
役職が上がるほど属人的に決まる度合いが強く、異動先の拠点長から、一本釣りのようなかたちで引き抜かれることがあります。以前、同じ部署にいたことや、違う部署だとしても一緒に案件に携わった経験が影響してくることになります。
当然、人事部によりある種、機械的に決定する部分もありますが、個人的な人の繋がりが異動を左右する場面も多くあります。
2. 人事異動を決める要素
(1) 支店長・部長
人事異動を左右する一番の要素は、所属している支店・部署のトップである、支店長と部長です。人事部からどんなにいい異動先の打診が来たとしても、所属長がNoと言えば、異動が実現することはありません。
また逆に、所属長が社内における人事的な力を持っていると、希望の部署への異動が叶うよう、人事に掛け合ってくれることもあります。最終判断は、所属長の意向で決定するため、将来のキャリアの希望をしっかり伝えておくことが重要となります。
運の要素と言えるのは、まず所属長との相性です。支店長・部長クラスになると2年から3年で異動になります。自分自身の異動のタイミングが、相性の合う所属長であるかどうかで人事異動が大きく左右されます。過去にも、所属長が代わったことで、ある社員の評価が一変したケースを何度も目にしてきました。
また、所属長が部下想いであるかどうかも運に左右される大きな要素です。拠点を運営する所属長としては、期の途中でうまくいっている部下を異動させたくはありません。拠点運営側の立場としては当然な考えではあります。
部下想いの拠点長の場合、部下のキャリアに適った異動先の打診が来た場合、支店運営より優先して部下個人のキャリアを考えます。その部下が抜けても、支店運営はなんとかなると腹を括って、人事部からの異動の打診を受けてくれるのです。
逆に、部下想いではない拠点長の場合、良い異動先の打診が来た場合も、拠点運営を優先してその打診を断ってしまうケースもあります。拠点長の拠点運営並びに異動に対する考え方は、自分自身ではどうすることもできないので、運に大きく左右されることになります。
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(2) タイミング
人事は水物であり、タイミングに大きく左右されます。例えば希望のポジションがあった場合に、そのポジションにいる人の人事異動のタイミング、自分自身の人事異動のタイミング、役職や経験年数からそのポジションが務まるかどうか等、複数のタイミングや条件が一致しないと、希望の人事異動は実現しません。
実際に上司に言われた言葉として、「実務研修や出向のように任期が決まっている所属部署の後の異動は希望が叶いにくい」ということがあります。これは異動のタイミングが任期終了時点と、あらかじめ決まってしまっているために、希望の異動先のポストが空くかわからず希望が叶いにくいというものです。
異動のタイミングが決まっていないのであれば、今いる部署に留まり、異動先が空くタイミングを待つことができるため、希望の異動が叶いやすくなるということになります。
(3) 前任者と後任者
異動先の前任者や異動してくる後任者の状況によっても大きく左右されます。
例えば、あるポジションで急遽退職者が出た場合、過去に経験がある人材に突然声がかかる場合があります。このケースは、今いる部署の在籍期間が2年未満であっても声がかかることもあり、まさに前任者、後任者により左右されることになります。
また、退職などの特殊事情がある場合は、退職者がでた支店・部署の拠点長から、名指しで打診が来ることがあります。このようなケースでは、前述の属人的な要素が強くなる可能性があり、個人的な繋がりによりまさに一本釣りで異動が決まるケースがあります。
3. 運により決まった異動の実例
ここでは実例を用いて、運により決定した人事異動についてご紹介していきます。
(1) メキシコで研修をした2人の同期
AさんとBさんは同じ時期にトレーニーとしてメキシコに赴任した同期でした。Aさんはメキシコでの研修期間が2年であったのに対して、Bさんは米国での研修後に1ヶ月だけメキシコで研修をしました。
運による異動が起こった際は、2人とも日本で勤務をしていました。
(2) 1ヶ月の研修実績による一本釣り
AさんとBさんが日本に帰国してから2年ほどが経ったタイミングで、メキシコ拠点の駐在員が急遽退職することになりました。
メキシコは、言語も特殊言語とされるスペイン語であり、生活環境もハードな面があるため、メキシコの拠点長は経験者を後任とすることを希望しました。
そこで、1ヶ月とはいえメキシコ赴任の経験があるAさんに目星をつけ、一本釣りのかたちでAさんの上司に打診をしました。Aさんの上司はこの打診を受けたため、Aさんのメキシコ赴任が決まりました。
Aさんは、このタイミングでは海外への赴任は希望しておりませんでしたが、突然退職者が出たという事情により異動が決定しました。
(3) 上司の意向により別の赴任地へ
実はメキシコ赴任の話は、Aさんの前にBさんの上司に打診されていました。Bさんは、メキシコでの赴任期間が2年と長かったため、当然第一候補として打診が来ていたのです。
BさんはAさんとは違い、メキシコへの赴任を内心は希望していました。しかし、Bさんの上司は、Bさんに相談することなく、この打診を断ってしまっていたのです。
Bさんの上司は、Bさんの今後のキャリアも踏まえメキシコ以外の国へ赴任させたかったようですが、上司が違えば打診を受けていたことも十分考えられる状況でした。
これも上司が誰であるかという、運で決定した人事になります。結局、Bさんはその一年後にベトナムに異動することとなりました。
このように上司の意向や、本当にわずかなタイミングにより、人事異動は決定していきます。
まとめ
今回は銀行の人事異動について、解説させていただきました。人事異動は、人事権を有する上司との相性やタイミング、退職者等の想定外の出来事も含め、複雑な要素が絡み合い決定していきます。
そのため、希望通りの異動が実現するわけではなく、運に左右される部分が多くあります。運の要素を受け入れながらも、希望の方向を目指していく心構えが重要ではないかと思います。
少しでも銀行の人事制度の理解が深まり、何かの参考になれば幸いです。